日本を含むアジアのGDPは2014年に20.4兆ドルになると予想されている(IMF調べ)。アジアの一員である日本を意識することが進化のカギだ。1990年代より海外進出を果たし、内外のシナジー効果で苦境に挑む小林工業株式会社。代表取締役の小林正和さんに聞いた。
「あるべき姿を見直し、50年の計を未来への礎に」と語る小林正和社長。
2009年は私たち小林工業にとって、創業50年という節目の年でした。30年前に先代から引き継ぎ、50年の企業存続・発展をひとつの目標に掲げてきました。また、これは個人的な思いですが、父親である先代より一日でも多く長生きしたいと願っていて、昨年12月でそれがかなえられました。振り返ってみれば、山あり谷ありの半世紀でしたね。国内の工場新設や設備投資に続いて、1996年には初めて海外に進出。タイに現地法人コバヤシオートパーツタイランドを設立し、中小企業の中ではいくぶん早めに海外生産をスタートさせた方だと思います。当初は思うように軌道にのせられず、工場の掃除をして日が暮れるという苦しい時期が続き、翌年の通貨危機にも頭を悩まされたものです。それでも、この思い切った決断がグローバル戦略の端緒となり、取引先企業の拡大路線に合わせて、2004年にはインドネシアに現地法人コバヤシオートパーツインドネシアを設立しました。昨今の厳しい経済情勢はあるものの、国内に止まっていては成し得なかったことが展開できています。
日本企業の海外移転が加速し、国内の産業空洞化が懸念されていますが、マーケットが外にある今、これはやむをえません。我々が拠点を置くインドネシアやタイは日本を大きく上回る成長率を示しています。これまでは日本の技術やノウハウ、モラルを伝授して海外の子会社を育ててきたけれども、向こうのレベルが上がってくると、いずれ設計や開発を自分たちでやることになります。その時、日本の存在価値が改めて問われることになるのです。技術面、管理面での貯金もそろそろ底をつき、私たちはアジアの仲間をリードするための新しい価値を示す時期に来ています。大切なのは日本が唯我独尊に立つのではなく、アジアの一員として力を十分に発揮すること。IMFの調査によると、日本を含むアジア(31カ国・地域)の2014年のGDPは20.4兆ドル。EUや米国を上回り、日本単独の5.7兆ドルとは比べものにもなりません。今こそ、日本、タイ、インドネシアのシナジー効果で難関を突破し、創業以来の「堅い会社」を貫いていきたいと思います。
他社に先駆けた海外進出でグローバル展開。国境を超え、社員の力を結集する。
昨年、入社3年目の若手社員をインドネシアの工場へ派遣し、現地作業者の指導に当たらせました。新入社員研修を終えるか終えないかという若手にそんな重大な任務が務まるのかという声もあるでしょう。しかし、彼は立派にやってきた。たどたどしくも朝礼であいさつし、日本にいる上司とメールでやり取りしながら、さまざまな問題点をクリアしてきたのです。「創意工夫」「人の和」「堅実」を社是とする弊社では、社員一人ひとりのやる気と協力体制を育む環境を重視。ハイレベルの講師と契約して社員教育を行うとともに、どんどんチャンスを与えて実力を引き上げていくのがやり方です。技術を伸ばす、スキルを上げる、その結果、人間が成長する。この循環はいつの時代も変わることはありません。
私たちが手掛けている製品は主に二輪・四輪自動車部品。従来展開してきた先進国市場では、高機能、高品質であれば高価格でも受け入れられました。しかし、先進国の大きな成長に期待できず、新しい市場へのシフトが命題となるこれからは、必需品をつくるという意識が重要です。高い品質を維持しつつ、身を切るような低コスト化を図っていくその第一歩として、作業の中身を徹底分析し、本当の価値を生む作業だけを価値作業として絞り込む「理論値生産」に取り組みます。時代に合わせて“あるべき姿"を見直し、「全数良品」と「理論値生産」をキーワードに新たな活路を切り開いていきたいと考えています。
こうして述べると、周囲には悲観的な材料しかないように映るかもしれません。でも、それは違います。私は常々、「物事は悲観的に考え、状況に対して楽観的に行動する」ことを肝に銘じています。確かに現在はどの企業の経営者も頭が痛い状況で、危機感を感じない日はないでしょう。先日も異業種交流の一環で「心と身体の健康」という講座を受けました。これは余談ですが、人間ドックでも神経年齢なるものを診てもらったんですよ。すると、実年齢をはるかに超える79歳という結果が出た(笑)。自覚がなかっただけに、驚きましたね。相当、こたえているんだなと。泥臭い言い方ですが、経営者の最終的な責任は、社員の生活の安定です。悲観論に終始していては一歩も前に進めないし、楽観ばかりでは道を誤る。悲観と楽観をミクスチャーしてこそ、足が前に出るというものです。
先日、五木寛之さんの著書を読んでいたら、「なるほど」と膝を打つ言葉に出会いました。「あきらめる」とは「明らかに究める」ことだというのです。どんなに嫌なこと、不快なことがあっても目をそらさず、しっかりと現実を見つめ、ありのままの姿を見定めることが大切なのだと。そうすれば道はおのずと開け、結果的にあきらめなくて済む。いや、「絶対にあきらめないぞ」という強い意志が沸いてきます。情報が不安を煽る一因にもなっていますが、冷静に現状を見つめれば、一筋の光明が見えてくるはず。その光を手元に手繰り寄せ、自分と社員の力を信じて未来へと着実につなげたい。小林工業にとって2010年は新しい50年への第一歩です。毎年恒例となっている“仕事初めの赤飯"をたくさん炊いて、一人でも多くの社員にふるまうこと。まずはそこから活力を生み出していきたいですね。
小林工業株式会社
〒430-0841 静岡県浜松市南区寺脇町722
事業内容/二輪・四輪自動車部品等の製造
従業員数/100名 創業/1959年5月