“忙しい時には手を付けられなかったこと”を始めるチャンス。
中村穣治さんと宮武哲さんは、それぞれ大手メーカーでものづくりに何十年と携わってきたエンジニアだ。メーカーを定年退職した後、「ものづくりの経験を中小企業の成長に役立てたい」とベンチャーラボに参加。現在は、中小企業の技術開発に関するアドバイス、それにともなう企業マッチング(製品開発などにおける技術協力や提携)の推進を手掛けている。
100年に1度といわれる金融危機。突然の株安や急激な円高は、中小企業の経営を直撃し、先行きに大きな不安の影を落としている。しかし、この状況を何とか乗り切っていかなければならない。不況の真っ直中の今、中小企業はどのように舵取りをしていくべきなのだろうか。中村さんは言う。
「今、この不況の中でも経営を保つことができているのは、受注があり忙しい時でも、地道に明日のことを考え、動き続けていた企業です。不況の時でも同じです。仕事が減ってきたからと現状を嘆いているばかりではなく、問題意識を持って明日に向けて動いていかなければなりません。社内整備、ISOの準備、人事や評価などの制度確立、新しい技術開発など、明日に向けて“忙しい時には手を付けられなかったこと”を始めるいいチャンスだと思います」。
大手企業に任せきりだった先行開発力・マーケティング力を身につける。
大切なのは「今日、明日、あさっての視点」。今日のことで精一杯という中、わずかでもいいから「未来」への視点を注ぐことができるかどうか。この“わずか”の差の積み重ねが、いつしか大きなアドバンテージとなる。中村さんは言うのだ。
「市場や注文が伸びている時は、社会や技術の変化の動きを掴まなくても“注文書どおり”に仕事をすれば、嫌というほど仕事がきた。今でもその習性から抜けきれないでいる経営者は少なくありません。世の中のマーケット自体がガラリと変化してしまった今、中小企業の経営者といえども“注文書のその先”を見据えて仕事をしていかなければならないと思います。その先とは『消費者』です。世の中の人々は何を求めているのか、これからの時代にどんなものが必要だと思っているのかを、先回りして考える。これまで大手メーカーに任せきりだった先行開発力・マーケティング力を身につけることが、不況を乗り切る企業体質強化の一歩になるはずです」。
大豊作の時期は終わり、実った穂もすべて刈り取られてしまった今、私たちはまた大手企業が実る日を待つのではなく、みずからで「種」を蒔き、育てていかなければならない。中村さんも、宮武さんも、そうすることが「強い中小企業」をつくる足掛かりなると信じている。
大手企業に頼るばかりではなく、中小企業の連携で新しいものを生む。
「今の時代は、専門スキルだけでは新しいものは考案できません。これまでの中小企業は、板金なら板金、溶接なら溶接と、ひとつの工程だけを一生懸命にやってきました。しかし、今後はそうした専門と専門を融合させ、新しいものを生み出していく必要があると思います。たとえば、めっき、塗装、金型の専門メーカーがそれぞれに独自のアイデアと技術を持ちよれば、とても面白いものが生まれてくると思いませんか?私たちはその接着剤的な存在になりたい。大手企業に頼るばかりではなく、中小企業の連携から“これまでになかったものを生む”ために」(中村)
「常に求めていると、求めていたはずの本筋ではなく、その“隣り”にも気づくことができます。じつは“こうしたい”と思っている隣りに、大きな次へのヒントや光が隠されていることも多いんです。そうしたさまざまなことに気づくためにも、ぜひ貪欲に新しいものを追いかけてほしい」(宮武)
今、経営を守りながらも、未来に向けてどれだけ前向きになれるのか。そして、そのために地道に種を蒔き続けることができるか。一人でできないことは、周囲と協力してやり遂げる。会社の枠を越えて、一緒に新しいものを生み出していく。
大手企業の業績が総崩れとなり、中小企業の業績もそれに合わせて総崩れとなった。好不況の波は今後も定期的にやってくるだろう。その時、この経験を活かすためにも、中小企業が自分の足でしっかりと立てるようにならなければならない。今は、その礎を築いていく絶好の機会である。
株式会社ベンチャーラボ
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事業内容/企業力格付評価、知的財産活動支援(企業マッチング)など
従業員数/3名(浜松支社) 創業/1999年