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社団法人 日本能率協会
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ものづくり企業 新世代の経営戦略 vol.07 ねじは産業の「塩」。次世代をどう味付けするか。 橋本螺子株式会社(静岡県浜松市) 代表取締役社長 橋本秀比呂さん
 文明生活では半径1m以内に必ずねじが存在するといわれる。1955年の創業以来、時代の要請に応え続けている橋本螺子株式会社。橋本秀比呂さんのチャレンジ精神に迫った。

日本のねじ品質は世界一。今は価格とスピード勝負。



二代目社長として新分野にチャレンジする橋本秀比呂さん。
 当社は1955年(昭和30年)、先代が一般鋲螺製品販売を手掛けたのが始まり。ねじ製造メーカーから約2000種類のねじを仕入れ、さまざまな産業に納める卸業が基盤です。幅広いお客様からご注文をいただき、それぞれの製造現場へ足を運ぶうち、個々の企業の強みや独創性が色濃く見えてきました。優れた技術を活かさない手はない、お客様を巻き込んで何かできないかと考え、平成元年の社長就任と同時にオーダーパーツの製造に参入したのです。製造といっても、当時のわが社は生産設備を持っていなかったので、お客様からお預かりした図面を分析し、卸業で培った情報を駆使してパートナー(もとは当社のお客様)に製造を依頼する方法を採ったわけです。精密切削加工、冷間圧造、接合、表面処理など、それぞれのエキスパート企業の協力を得て、鉄、ステンレス、アルミといったあらゆる材質のオーダーパーツを生み出しました。

これに続いて、もう一歩先をと導入したのがアッセンブリです。現在、日本のねじ品質は世界一といわれ、高品質の実現はもはや当たり前となっています。となると、あとは価格とスピード勝負。ねじ業界に限らず、製造業全体がスピードアップに血眼になっている今、手間と時間を大幅に削減できるアッセンブリは重宝がられました。西は愛知県蒲郡市から東は静岡県静岡市まで約400社のお客様を抱え、ねじの卸販売はもとより、オーダーパーツの製作やアッセンブリまで受ける当社。“売る"から“つくる"へシフトしたこの10年が、ひとつのターニングポイントですね。

自社製品をつくりたい。夢に駆られてモナコまで。



医療機器事業部管理責任者の伊藤直彦さん。「大企業では経験できない仕事を任せてもらえる。まだまだ伸ばせる要素があるので、体制を整えて積極的に営業活動したい」と語る。
 企業経営は満足してしまったらそこでおしまい。常に革新的な目標を持ち続けなければ、進化はおろか存続もできません。私の中で“次は自社製品をつくりたい"という夢が膨らみました。オーダーパーツを手掛ける会社は浜松市内だけでも数十社ある。アッセンブリも決して珍しくない。まだ、だれもやっていないことは何だろうと考えた時、未来の金属・チタンが頭に浮かびました。高耐錆性、高比強度、軽量、生体適合性、非磁性といった優れた特性を持つチタンを使ってオーダーパーツを自主制作しようと思い付いたのです。とはいっても、チタンに関する知識はほとんどゼロ。もう13年ほど前になりますが、材料メーカー各社で組織する「社団法人 日本チタン協会」をインターネットで探し出したのが最初の一歩です。あれこれ質問するうちに熱意を認められ、正会員の方の推薦をいただいて、ついに下部組織の賛助会部会へ入れてもらうことができました。今思えば冷や汗ものですが、チタンの門外漢でありながら、入会年度にモナコで開催された世界会議にまで遠征するほどの熱の入れようだったんですよ。以来、最新の研究に携わる専門家たちのご教示に助けられ、また、自分でも刻苦勉励して数年がかりで理解を深めていきました。ステンレスの約10倍以上もの材料コスト、加工難易度の高さ、シビアな公差、量産に載せにくいオーダーパーツなど、覚悟はしていたものの、知れば知るほどチタンの手強さが実感として身に迫ってきます。それでも、他社に先駆けてやることに意味があり、価値があると信じて無我夢中で取り組んできました。

 自社製品というからには、社内に自前の生産設備を持たなければなりません。浜松市には中小企業基盤整備機構(中小機構)が静岡県や浜松市と協力して整備・運営する起業家支援施設「HI-Cube(浜松イノベーションキューブ)」があります。新たな事業の創出や起業家精神を応援するこの場所で、当社は2006年、医療機器事業部を設立しました。翌年1月、医療機器製造業許可を取得、同年6月にはISO13485を取得し、チタンを使った医療機器の試作・開発を本格的に開始しています。立ち上げにあたっては、大学で工学・物理を専攻した若手スタッフ2名に一任。医療機器製造業許可やISO13485を取得するための各種手続き、医療機器製造販売会社への研修、医療業界のノウハウを学ばせ、見事に信頼と期待に応えてくれています。生体に埋め込む医療用特殊ねじや手術室などでドクターが使う医療補助器具の製作は極めて特殊。これまでの常識を捨てるとともに、試作、製造、洗浄、滅菌、梱包といったトータル体制を構築できればと考えているところです。

開発段階から積極的に参入できる企業になりたい。

 こうして振り返ってみると、企業活動を通して培った人と技術のネットワークが新たな可能性を切り拓いてきたことがわかります。ねじは文字通り、モノとモノを結び付ける締結分野であり、そこには人と人、技術と技術との強い結び付きがあります。単独ではできなかったことが、周囲の賛同と協力によって実現できたことに深く感謝するとともに、これからもチャレンジ精神を忘れることなく、新しいニーズを開拓していきたいですね。お得意先の購買部から既製品を受注するだけでなく、新しいプロジェクトが始動する際、開発・設計段階からメンバー入りすることが私たちの目標。トヨタ看板方式に代表されるように、製造業は今後ますます、必要な時に必要な分だけ部品を調達するという合理化・効率化が加速します。多品種少量生産にどう対応するか、オーダーメイドでいかに利益を出すか、考えなければならない課題はたくさんあります。難しい時代こそ力を伸ばすチャンスと捉え、「モノづくりの街、浜松に橋本螺子あり」と言われるようになりたいですね。

会社概要

橋本螺子株式会社
本社:〒430-0801 静岡県浜松市東区神立町124-11
医療機器事業部:〒432-8003 静岡県浜松市中区和地山3-1-7 Hi-Cube105
事業内容/一般規格ねじ、特殊ねじ、オーダーパーツの卸・販売、チタンを使った医療用ねじや手術用械器具の製造
従業員数/14名 創業/1955年12月