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社団法人 日本能率協会
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開発ストーリーを追え! vol.06 一途に考え抜く。その先に必ず答えがある。 株式会社栗田工業 代表取締役 栗田泰生さん(愛知県豊橋市)
 エコで安全な室内まるごと空調システム(空気式床冷暖房)「エア・フロア」の開発に成功した株式会社栗田工業。空気の特性を見つめ続けて10年。栗田泰生社長にうかがった。

寝ても覚めても考え続けた。ひらめきは10年間の総決算。



空気式床冷暖房システム「エア・フロア」の生みの親、栗田泰生社長。
 目に見えない空気をにらんで知恵を絞り、頭に浮かんだことを思いつくままに紙に書き出す。ただひたすら空気と格闘した10年間でしたね。当社はLPGの販売や管工事業を行う企業として1974年に創業。空調設備工事、床暖房設備工事に参入し、温水床暖房工事や温砂式電気床暖房の販売を手がけてきました。床暖房システムは床下に温水や電気を通す方式が主流。でも、これらはランニングコストが高いうえに、漏水や漏電の危険性があり、メンテナンス費用もばかになりません。せっかく導入しても途中で使うのをやめてしまうケースを目にするうち、温水や電気の代わりに空気を使えないかと思ったんです。空気なら初期費用が抑えられるし、ランニングコスト、安全性、メンテナンスを同時に解決できます。しかし、前途は多難。空気は熱媒体として安全性やメンテナンスの面で温水や電気より優れている反面、熱容量が水に比べてはるかに小さい。熱輸送、熱貯蔵能力の低さがネックとなり、空気で床を温めることは困難というのが業界の常識なのです。
 最初に考えたのは、床下冷暖房のための熱源を別途用意するのではなく、室内エアコンや石油ファンヒーターから出る温風(冷風)の一部を利用するということ。ダクトを通して送風機で床下へ空気を送り込み、圧縮した空気を床の全面に行き渡らせて冷暖房しようというわけです。まあ、ここまではよかったんですが、床下へ空気を送り込む際、圧縮した空気が均一に拡散せず、温度のムラができてしまうという問題に突き当たりました。ヘッダーの空気穴の形状を変えたり、パネルの厚さを調節したりと、いろいろ試してみたものの、なかなかうまくいきません。毎日がトライ アンド エラーの繰り返しです。事務所の中が失敗した試作品の残骸でいっぱいになりましたが、あきらめようとは思いませんでした。世の中にない新しい製品を誕生させるのだから、一朝一夕でできるわけがない。開発とはそういうものです。10年が経ったある日、いつものように事務所の机で図を描きながら形状を考えていたら、突然ぱっとひらめいた。床下のパネルにわずかな隙間を設けて抵抗を減らし、空気の衝突回数を増やすことによって、圧縮した空気を効率よく床全体に拡散することができるのではないかと。早速、豊橋技術科学大学の研究室でシミュレーションしてもらったところ、予想通りのデータが出ました。そこから一気に商品化へと駒を進め、今年9月に「Air Floor(エア・フロア)」という商品名で発売に漕ぎ付けました。

CO2削減でエコを推進。経済産業省の新連携事業に認定。



床下に空気熱を満遍なく行き渡らせるパネル。特許も取得している。
 このシステムを一般住宅やオフィス、店舗、幼稚園、病院等に幅広く普及させるためには、イニシャルコストとランニングコストを低く抑えるのが前提です。安価で加工しやすい発泡スチロールとアクリル板を材料に使い、販売価格に還元。ランニングコストについても、エアコンの電気代と送風機の電気代(36ワットの送風機を取り付けたとして年間1400円程度)のみとなっています。最大の特長は環境配慮型システムであること。豊橋技術科学大学での実験結果をもとに省エネ効果を算出したところ、冬場、「エア・フロア」を使用すると、20℃のエアコン設定温度で、エアコン単独使用の設定温度24℃とほぼ同じ快適さが得られることがわかりました。これはエアコン単独使用時に比べて32%の省エネになります。今、全世界の共通テーマとして、地球環境保護が声高に叫ばれています。鳩山総理は国連で、日本は温室効果ガスを2020年までに1990年ベースで25%削減することを表明しました。今後、産業界のみならず、社会のあらゆるシーンでエコが加速することは間違いありません。「エア・フロア」が切り札のひとつになればうれしいですね。
 自信を持ってお客様に提供できる製品を開発したことに加え、もうひとつ喜ばしいニュースが舞い込みました。構想段階で申請した「エアコン等の室内空気熱を床下に分散させる床冷暖房システムの製造・販売事業」が2009年1月、経済産業省新連携事業(注1)に認定されたのです。以後、連携体である豊橋技術科学大学(技術検証担当)、太陽住宅株式会社、イフスジャパン株式会社(いずれも販売・施工担当)とともに、産学連携でプロジェクトを進めています。製品の構造はシンプルなんですが、空気の流れや抵抗を説明するとなると難しいので、エンドユーザーにもわかるようPRしていきたいと考えています。

夢をカタチにすること。お客様の笑顔に出会うこと。

 製品開発には気の遠くなるような時間と並々ならぬ労力が必要です。そして、それ以上に、決してあきらめない粘り強さが不可欠です。今回、空気式床冷暖房システムの開発に成功したのも、自分の長年の夢をカタチにしたいという強い思いがあったからこそ。技術に携わる以上、そこに進歩や発展がなければ、おもしろくありません。また、販売を手がける者にとっては、お客様の喜ぶ顔に出会うことが一番の喜びであり、やりがいなのです。おかげさまで、建築関係を中心に多方面から「エア・フロア」に関するお問い合わせをいただいています。今後、新連携事業の仲間たちと一致団結して拡販に努め、一人でも多くのお客様からご満足の声をいただけるよう、頑張っていきたいと思います。
(注1)経済産業省新連携事業:新たな事業分野の開拓を図ることを目的に、事業の分野を異にする事業者が有機的に連携し、その経営資源(設備、技術、個人の有する知識及び技術、その他の事業活動に活用される資源)を有効に組み合わせて行う新事業活動。中小企業新事業活動促進法では「異分野連携新事業分野開拓」という。(法律第2条第7項抜粋)

会社概要

株式会社栗田工業
〒440-0814 愛知県豊橋市前田町2-18-1
事業内容/床暖房の開発・販売
従業員数/2名 創業/1974年6月