ディビーエスは、建築物の梁と柱の結合部分の強度を高める「DBリング」を独自開発し、その「DBヘッド定着工法」に注目が集まっている。工期を短縮、コスト低減を実現。
山本俊輔さんにとって、工場は「遊び場」だった。幼い頃、よく工場でかくれんぼをした。そこで働くたくさんの男たちに遊んでもらった。大小さまざまな道具類は、時におもちゃとなった。働く者たち、そしてものづくりの楽しさと美しさのすべてが、父の経営する工場に詰まっていた。
工場には、本当にさまざまなタイプの人がいた。もちろん、外国人も。山本さんは、父の言葉を今でもよく覚えている。「外国で働くというのは、とても大変なことなのだ。自分が同じ立場になった時のことを想像してみるといい。彼らが何を求めているのか。私たちが何をしてあげるべきなのか。それがよくわかるから」。
山本さんの父は、古くから外国人労働者に対する理解を持っている人だった。外国人だけではない。同じ屋根の下で働く仲間たちに、分け隔てなく接した。だから、みんなが優しかったし、幼い山本少年にとっても居心地のいい遊び場にすることができた。
バイオリンを弾き、芸術家を志していた山本さんが「自己表現をビジネスの場でやってみよう」と思ったのは、大学時代のことだ。経営情報システム(MIS)を学んだ。一般的なセオリーをそこで身につけ、自分なりの組織論を築き上げてみたいと思った。
大学を卒業した山本さんは、遊び場だった工場に、今度は働く者として帰ってきた。バブル経済が崩壊したばかり。世の中は不況の真っ直中にあった。「いわゆるずっと右肩下がりの時代。世間の経営者と違い、私はいい思いをしたことがありません。だからこそ、常に前向きに行動を起こさざるを得なかったんです」。
整理整頓された工場内。すべての作業内容は、社員全員が共有できるよう言葉や数字で“可視化”。「雨の日も働きやすいように」と高い天井の屋根をつけた
前向きに行かざるを得ない。今いる人たち、今あるものをどう活かし、ビジネスへとつなげていくか。山本さんは模索し続けた。
山本さんがもっとも注力したのは「チーム感の醸成」だ。限られた枠の中で成果を出すには、1+1=2ではなく、1+1=3にも4にもなる組織にしなければならない。個人の能力に頼っていては限界がある。スタンドプレーヤーはいらない。ひとつのミッションに対して、チーム一丸となって迅速に誠実に機能し「勝ち」を目指す。そんな集団をつくりたいと思った。
チームと個人の目標を設定し、それを明確にする。目標に対して、達成率などの進捗状況を誰もがわかるように可視化する。遅れているのであれば、チームでその原因を考え、フォローし合いながら立て直していく。社員の机の横には、常に目標数字と達成率を書き記した紙が貼ってある。あるベテラン社員は、その紙を指さしながら笑った。「今日は順調にいったね。ほら、ちゃんと目標をクリアしてるでしょ」。今日はどうだったのか。明日からどうしていけばいいか。若手とベテランが数字を見ながら意見を交換する。共通の目標が社員と社員をつないでいる。
目標とは、チームみんなで追いかけていく「未来」。会社から一方的に押しつけられる数字であれば、そのうちに苦痛を感じて、追いかけてしまうのを止めてしまうだろう。でも、目標の先に、自分たちの未来があると思えば、誰もけんめいに追いかけ、絶対に達成しようと懸命になる。
会社の備品は廃材を利用し社員全員で手作りする。アイデアを出し合うことで「チーム感」が高まっている。
押しつけられるのではなく、自分たちでつくり上げていく。目標も、製品も、そして会社も。自分たちは何を目指すのか。どんな会社にしたいのか。どのような環境で働きたいのか。考えるのは経営者ではなく、社員たち自身。ここにいる社員みんなの力を合わせて、あらゆるものをつくり上げていくのだ。では、経営者の役割とは何だろう。
山本さんはいう。この時代における経営者の役割とは「価値のプレゼンテーション」だと。
ブラジル人工場長のマンゴリンさん(右)は勤続17年。「社長とは“家族”のような付き合い」だと話す。
「芸術家と経営者は非常に似ていると思っています。孤独で、気高く、理想を思い求める職業です。ただ、大きな違いは、経営者は組織をマネージメントしなければならないということです。情熱だけではコントロールできず、また一人では何もできません。そういう意味では、経営者はオーケストラをまとめるコンダクターに近いと思います。個性のぶつかり合う個々の技術やスピリットを泳がせながらまとめ、ひとつの表現に持っていかなければなりませんから」。
チーム力が製品という価値を生み出す。その価値を高いプレゼンテーション能力を持って、世の中に知らしめていく。それが経営者である自分の役割だと山本さんは語る。
「ものづくりの現場は今、非常に厳しい状況に立たされています。オーケストラも同じです。その素晴らしさは誰もが認めるものの、存続が危ぶまれている団体も数多くある。不況だからこそ、現場を守るのは私たちの使命だと思っています。どんなに素晴らしいものを作りあげても、人々の目に触れ、その心に入り込む機会がなければ、埋もれていくだけです」。
この秋以降、ものづくりの世界には強い逆風が吹いている。でも、その風から逃げることはできないし、顔をそむけることもできないのだ。「いままで以上に厳しい戦いが予想されますが、これまでもそうやって乗り切ってきたように、前向きに組織を構築していくことで、ものづくりの現場を守っていきたい」。
「これからの時代、真に強い会社とは“組織を信じられる会社”だと思う」と山本さんはいう。山本さんはチームの力を信じる。チームのメンバーたちは、共に働く仲間を信じ、経営者として先頭に立つ山本さんを信じる。
暗い出来事が続く中「信じられない」「信じられなくなった」という言葉があちこちで飛び交っている時代だからこそ、「信じられるもの」を。「自分が同じ立場になった時のことを想像してみるといい。彼らが何を求めているのか。私たちが何をしてあげるべきなのか。それがよくわかるから」。父の言葉を胸に、山本さんは組織づくりに邁進する。社員の声に耳を傾けながら、懸命にタクトを振り続ける。
株式会社ディビーエス
〒441-3125 愛知県豊橋市豊栄町字東358−1
事業内容/鉄筋工事業及び鉄筋工事関連事業、DBヘッド定着工法
従業員数/43名 創業/1960年