人材を育てなければ、
中小企業の経営戦略は成り立たない。
新製品「荷重-変位計測ユニット」を開発。フォースゲージにおいて世界初でUSBの搭載に成功。生産管理などの現場で測定したデータをその場でパソコンに高速転送できる。
今田充洋さんは三代目である。祖父が経営していた今田製作所を父が継ぎ、計測器部門を独立させて「イマダ」を設立。その会社を昨年、充洋さんが継いだ。32歳のときだった。
イマダは、引張力や圧縮力などの精密強度を検出する計測技術では、世界にその名を知られている。主力製品である「フォースゲージ(荷重測定器)」は世界25カ国に輸出され、日本・東南アジアでナンバーワン、アメリカでも第3位の販売台数を誇っている。新製品「荷重-変位計測ユニット」は、豊橋商工会議所の「第9回加工技術賞」を受賞するなど、各分野から高い評価を得ている。
「これまで技術開発力と品質を保持してこれたのは、父の代から何十年と現場を守り続けてくれているベテラン技術者のおかげ」と今田さんは言う。しかし、現場ではすでに世代交代がはじまっている。これからは若手が中心となり、守り続けてきた技術を受け継ぎ、さらに発展させていかなければならない。
イマダの社員数は24名。何よりもまずは人材を育てなければ、中小企業の経営戦略は成り立たない。「中小企業は人が育ちにくいと言われていますが、何とかしてその現状を切り崩したい。大手企業のように人材育成にコストもかけられないし、採用もスムーズにはいかない。それでも、アイデアと工夫次第では、人が育つ組織にできると思うんです」。
「非日常的な体験」をするからこそ、
多くの刺激を受け成長することができる。
シールの剥離強度、紙の摩擦抵抗、自動車のブレーキやパワーウインドウの強度、キーボードの押し心地、納豆のねばり、水稲の根の張り具合など…すべてを測定可能に。イマダのフォースゲージはさまざまな産業で利用されている。
今、今田さんが実行している“アイデア"のひとつが「1日工場長」というユニークな制度だ。毎月第4土曜日、社員が交替で「工場長」となる。各々でテーマを掲げ、マネジメントとは何かを実体験を通して学ぶプログラムとなっている。
「周囲をどう巻き込むか。スケジュールや段取りはしっかり組めているか。指示や指導はできるか。工場長になったその日のテーマを設定し、いかに達成するかを自分自身で考えていくことになります。また、1日に3回、工場長として現場のメンバーに声を掛けることもルールです。“調子はどう?"でも“いま何をしているの?"でも、掛ける言葉は何でもいい。これは『見ようとする力』をつけてもらうことを念頭に置いて、やってもらっています」。
上司はどれだけ神経をとがらせて、自らの責任において重大な決断をしているか。その苦労を少しでも理解することで、普段の働き方が少しずつ変わってくると今田さんはいう。実際、1日工場長を体験した社員からは、「本当に疲れた。仕事は自分ひとりでやるものではなく、仲間と協力しなければ何事も達成できない。そのために声を掛けて、仕事の状況を把握して、現場全体がうまく回っていくようにマネジメントをしていくんだということが、よくわかった」。
1日でも工場長を経験すれば、その大変さが実感できる。日常の仕事に戻ったときに「今、自分はこうしたほうがいい」という“気づき"も自発的に生まれる。
同じ顔を見ながら働き、同じ時間の流れの中でたんたんと働く。中小企業で働く多くの若手たちは、そんなマンネリの日々に嫌気が差す者も少なくないと聞く。“気づき"は、マンネリな毎日の中からは生まれてこない。1日工場長も「非日常的な体験」をするからこそ、多くの刺激を受けることができる。
今田社長が掲げる「イマダビジョン」。
東京などで行われる展示会やイベントには、技術者や総務などのスタッフにも参加してもらうことにしている。製品がどのような顧客に届けられ、どんな場所で使われているのか。そして、どのような評価を得ているのか。社員自身に体験してもらうためだ。褒められることもあれば、辛口の評価を受けることもある。会社にいるだけでは得られない“気づき"がここにもある。
「大失敗だった」。自信もなくした。自分の馬鹿さ加減を責めた。岸上さんは、自分自身に問いかけてみる。「ハンドホールを作っているだけの会社に戻っていいのか?」。答えは「NO」だ。
後退はしない、前へと進めていかなければならない。時代は変わっているのだから。父は、ハンドホールの製造で会社の礎を築いた。では、二代目の自分は何を築いていけるのだろう。この時代を生き残っていける会社にするために、何を生み出していけるのだろう。
成長の「きっかけ」づくりに労を惜しむか、
惜しまないか。
毎月第4土曜日に行う「1日工場長」。若手社員が順番にその日だけ工場長を任される。
仕事に対する気づきだけではない。人と人、社員同士の“気づき"を醸成するために、毎朝の朝礼では、代表者が「自分にとってのいいこと」を話すことにしている。仕事のことでも、プライベートなことでもいい。社員が最近あったいいことを、みんなの前で披露する。
ある女性社員は「先日、歯医者に久しぶりに行き……」と歯のことについて話し始める。またある社員は「最近、またギターをやり始めました……」と趣味について語り始める。隣りの仲間は、何を考えながら働いているのか。どんな感性を持っているのか。朝礼での「いいこと発表」は、社員同士のコミュニケーションツールにもなっているという。
「朝から“いい話"をすると、いい気分になって仕事ができます(笑)。社員同士が分かり合えるきっかけになるのはもちろん、会社の代表として取引先などで説明しなければならないことも多いですから、その時のための練習にもなっていると思います」。
1日工場長、展示会やイベントへの参加、朝礼での「いいこと発表」……特別にお金をかけてやっていることは、何ひとつない。それでも、ユニークなさまざまな取り組みを通して、若手たちは『学び』『気づき』『考え』ながら、少しずつ成長を遂げていく。
若手が「面白いと感じる」「興味が持てる」ようなきっかけを用意すれば、人材が育つ中小企業になることはできる。その「きっかけ」づくりに労を惜しむか、惜しまないか。今田さんは、できる限りのアイデアを持って若手社員と向き合おうとしている。
成功するアイデアもあれば、失敗することもある。それでも、やはり企業にとっての経営の核は「人材」でしかいないのだから、労を惜しむことは絶対にしたくない。今日よりも明日、目の前にいる社員が1歩でも成長するために。
株式会社イマダ
〒441-8077 愛知県豊橋市神野新田町字力ノ割99
事業内容/荷重測定器(フォースゲージ)の設計・企画・製造・販売
従業員数/24名 創業/1987年