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ものづくり企業 新世代の経営戦略 vol.02 「コンクリートの新しい「顔」を作り続ける。」 立基建材工業株式会社(愛知県名古屋市) 代表取締役・岸上昌史氏(43歳)
経営理念は「かつて類を見ない、コンクリート屋を創造し続けます」。2代目社長の岸上さんは、業界の“常識”を打ち破り続ける。
 コンクリートは、その使い方によってさまざまな表情を見せる。高度経済成長期、日本では木材に替わり、多くのコンクリートを用いた建造物が造られた。その無味乾燥な景観は「コンクリートジャングル」と形容されることもあった。

 一方、80年代後半からは「コンクリート打ちっぱなし」の建物がオシャレな建造物の代名詞として一般に認知され始めた。

工業用にも建築用にも使われ、味気ないと言われることもあれば、オシャレだと言われることもある。立基建材工業は、社員数11名、コンクリートを扱う会社として40年の歴史をもつ。3年前に父から会社を継いだ岸上昌史さん(43)は、 “多彩な顔を持つコンクリート"と今日も格闘し続けている。

安定している会社。
危機感のない社内の中で。

 岸上さんが家業を継ぐために、父の会社へ入社したのは13年前。30歳の時だった。そのときの率直な感想は「やばいな、この会社」。

 業績が悪かったわけではない。会社は、電柱の地中化工事に不可欠な「ハンドホール(地中で束ねた電線を通すホール)」をほぼ独占状態で製造しており、安定した利益をあげていた。「あくせくしなくても仕事はあるから」。そんな空気が社内に蔓延していた。

 ただ、この独占状態がいつまで続くかはわからないと、岸上さんは思っていた。実際、大手コンクリートメーカーがハンドホール製造に乗り出し、コンクリートの代わりに「樹脂」を提案する企業も登場。競争は激しくなりつつあった。

 多くのコンクリートメーカーは、U字溝やブロックなどの大量生産品を手がけ「数」で利益を上げている。しかし、ハンドホールは、手作業で仕上げていく部分も多く、工場を完全なオートマチック化することができず大量生産はむずかしい。

 そこに大量生産を得意とする大手企業が参入し、新素材を提案する新規メーカーも参入しようとしているのだ。「このままではいけないのではないか」。岸上さんが何度口にしても「うちは大丈夫だから」と取り合ってもらえない。危機感を募らせていたのは、岸上さんひとりだけだった。

一人きりでの挑戦は、
「失敗」に終わった。

 「何か新しい事業を始めないと終わる」。岸上さんは工場の片隅で、コンクリートを使ってある製品を作り始めた。“ランプ"である。コンクリートを工業用でも、建築資材としてでもなく、インテリアとして使うことはできないかと考えたのだ。

 それは、現場で目にした光景がヒントとなっている。四方をコンクリートに囲まれた建築現場を白球が照らすと、無表情だった壁面に温かみが増すような気がした。実際にコンクリートでランプを作ってみると、コンクリートの合間からこぼれてくる明かりは、思わず手をかざしたくなるほどに温かくと灯る。

 「何をしようとしているんだ?」「また無駄なことをして……」。周りは“二代目が勝手なことをはじめた"と思っていたかもしれない。でも岸上さんは、そんな周囲の視線に耐えながら、黙々とランプづくりを続けた。

 休日には、作り上げたコンクリートランプをフリーマーケットで売って歩いた。評判は上々だった。ブランド名も「CONCRETE DESIGN KITSUJI(コンクリートデザイン キツジ)」と名づけ、さらに大手量販店に製品を持ち込むと、正式に商品として店頭に置いてもらえるという。店頭に並んだコンクリートランプは、想像以上に売れた。


写真左:瀬戸工場の現場で。若手社員と一緒に技術開発に取り組む。
写真中:日々の天候にあわせ、水やその他の配合を微妙に変えていく。
写真右:文字を入れることも可能。個人の顧客からの注文にも対応している。
 当初は疑問の目を投げかけていた社員たちも、次第に岸上さんの頑張りを認めざるを得なくなった。入社して4年目に「事業部」として正式に事業部化。岸上さんは、建築設計士やデザイナーと組み、何千万円の投資をして、本格的にコンクリートランプの製造・販売に乗り出した。

 デザインも数種類を用意した。グッドデザイン賞(中小企業長官賞)も受賞した。多くのマスコミにも取り上げられた。ただ、それらの評判とは裏腹に、肝心の製品は売れなかった。「こだわり過ぎた」のだ。新しいコンクリートの風合いを徹底的に追求し、デザインも何度も検討を重ねて凝りに凝った。その結果、1体の価格が1万円を超えてしまった。ユーザーが「手にしてみたい」と思うには高すぎた。

 「大失敗だった」。自信もなくした。自分の馬鹿さ加減を責めた。岸上さんは、自分自身に問いかけてみる。「ハンドホールを作っているだけの会社に戻っていいのか?」。答えは「NO」だ。

 後退はしない、前へと進めていかなければならない。時代は変わっているのだから。父は、ハンドホールの製造で会社の礎を築いた。では、二代目の自分は何を築いていけるのだろう。この時代を生き残っていける会社にするために、何を生み出していけるのだろう。

それでも「おかしなこと」を
やり続けていきたい。

 岸上さんは、ランプに続いて、「建築用材料として、これまでにない発想でコンクリートが使えないか」と考え、内外装のコンクリートプレートの開発を始めた。当然、建築に関する知識はまったくない。毎日、穴があくほど専門雑誌を読み込んだ。

 工場でさまざまな材料を混ぜ固め、コンクリートの壁材や床材、ブロック材を作る。ブレンドする砂粒の大きさ、練りの状態、凝固させる際の温度や湿度……何度も何度も試行錯誤を繰り返す。出来上がった製品を、全国タイル試験場に持ち込み、強度や曲げなどを自ら検査し続けた。

 やがて、岸上さんの新しい挑戦は口コミで広がっていく。あるジュエリーショップのデザイナーが、コンクリートの壁材を見て「面白い」と興味を持ち、東京・原宿の本店で実際に採用してくれたのだ。「すてきな素材を開発してくれてありがとう」


写真左:ランプの中で一番人気の「KACHIWARI(かちわり)」 (税込 5,670円)。
写真中:「キツジブロック」は丸みのある、やわらかな曲線の美しさが特徴。
写真右:キツジブロックが採用された店内/炭火焼肉 浪漫(大阪市西区)
壁材、床材、ブロック材……たくさんの人たちの「輪」の中で、さまざまなアドバイスやアイデアを受けながら、コンクリートプレートは進化を遂げていく。2006年には「KITSUJI(きつじ)」ブランドの新たなラインナップとして「キツジプレート・キツジブロック(コンクリート製装飾建材)」を加え、商品化した。

 最近では、「キツジプレート・キツジブロック」を「面白い」と採用してくれる設計士や店舗デザイナー、住宅メーカーが全国で少しずつ増えてきた。それに伴い、「失敗」だったはずのコンクリートランプの評判も高まり、新たな展開を見せ始めている。もちろん、まだまだ会社の基盤を支えているのはハンドホールに違いない。でも、これから5年、10年の歳月をかけて、岸上さんは「KITSUJI」のさまざまな商品群を中心に、会社の新しい事業の柱を増やしていきたいと考えている。

 二代目社長・岸上さんの経営理念は「かつて類を見ない、コンクリート屋を創造し続けます」。これからも失敗することがあるかもしれない。それでも「こいつ、おかしなことやってるぜ!」をやり続けていきたいと岸上さんは言う。

 コンクリートが日本にやってきたのは100年以上の昔、明治時代と言われている。今では、当たり前のように使われている材料だからこそ、コンクリートの新しい用途を生み、多くの人にその良さを知ってほしい。

 岸上さんは、次にどのようなコンクリートの“顔"を作り上げてくれるのだろう。

会社概要

立基建材工業株式会社
本社
〒467-0843 名古屋市瑞穂区土市町1丁目24番地2
TEL:052-852-7771 FAX:052-852-7776
工場
〒489-0067 瀬戸市小田妻1丁目219番地
TEL:0561-48-0436 FAX:0561-48-0439