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開発ストーリーを追え! vol.04 「ウレタン樹脂の新しい可能性を探れ」 株式会社ポリシス(静岡県浜松市)
“プリン”のような感触の「プリンゲル」。病院などで看護師の注射練習用の人体模型として利用されている

壁にぶつかるのが技術開発。
失敗作でも「捨てない」。



社長の毛利氏。「技術開発は必ず壁にぶつかるもの。諦めてしまえばそれで終わりになってしまう。“いつかできるだろう"と寝かしておく余裕も必要」。
 きっかけは、スポーツメーカーからの依頼だった。「テニスシューズの衝撃を和らげる素材として、ウレタン樹脂を使ってみたい」。ポリシスのウレタン樹脂(ポリウレタン)の用途拡大への挑戦は、ここから始まった。

 まず最初に商品化されたのは、このシューズの依頼から発想した「ハプラゲル」だ。衝撃吸収材・防振材としてもっとも多く利用されているのは“ゴム"である。超低硬度のハプラゲルは、90%以上の衝撃吸収率を実現し、ゴムの約2倍の防振性と伸び変形500%の耐久を実現した。

 ハプラゲルの評判は一気に広まり、JR西日本の新幹線車輌の防振材として採用されたほか、アメリカでは戦闘機のモニター振動ブレ防止などにも利用されるまでになった。

 ポリシスは、大手メーカーで材料開発を行っていた毛利俊甫社長が「ウレタン樹脂でもっといろいろな製品が作れるはず」と、2004年に独立し設立された会社だ。社員数は8名。うちエンジニア4名の小所帯で開発を行っている。

 開発室には、無数のビーカーが所せましと並べられている。エンジニアたちは、ウレタン樹脂にさまざまな薬品を配合し、化学反応を確かめる。実験を繰り返す。そのほとんどは、成果が得られないで終わる。いわゆる“失敗"だ。ただ、どんな失敗作でも捨てずに取っておくのがポリシス流。毛利社長はいう。

 「常識的には商品化を躊躇するものでも、捨てずに取っておきます。技術開発は必ず壁にぶつかるものです。でも、ぶつかったからと諦めてしまえば、それで終わりになってしまう。“いつかできるだろう"と寝かしておく余裕も必要だと思っています。今はダメでも、先々に“面白いもの"に化けるかもしれませんから」。

失敗から偶然に生まれた商品が、
月産2トンを誇るヒット商品に「化ける」。



JR西日本の新幹線車輌の防振材として採用されている「ハプラゲル」
 その化けた好例が「プリンゲル」だ。プリンゲルは、ハプラゲルの改良品をつくろうと試行錯誤している中で、偶然に誕生した商品である。

 ある日、工場長からハプラゲルの改良品についての報告があった。「失敗しましたが、面白いものができたかもしれません」。それは、分子量の計算ミスから偶然にできた素材。工場長の言うとおり、すべての理論値から外れており、常識からすれば失敗作だった。

 しかし、失敗作のウレタン樹脂は、人肌に近い滑らかな触感を持っていた。「面白いかもしれない」。毛利社長は、すぐに耐久試験に取りかかった。「100度の環境で1ヵ月間放置しても大丈夫か」「屋外に放置した場合の耐久性はどうか」……さまざまな耐久試験を何度も繰り返した。結果は「OK」だった。

 商品名は、プリンのような肌触りを持つことから「プリンゲル」と名付けた。商品はできたが、これをどこでどう活用できるのだろうか。毛利社長は「人の肌に近い触感だから」と、人体模型メーカーにプリンゲルを持ち込んだ。すると「これは看護師の注射練習用に使えるかもしれない」と、即座にニーズが見つかった。

 現在、プリンゲルは月産2トンのヒット素材となった。学校や病院では、プリンゲルで作られた腕や足の人体模型に向かい、看護師の卵たちが注射の練習をしている。失敗作は、時を経て見事に「成功」へと化けた。

ウレタン樹脂の防音材を商品化へ。
新たな分野への挑戦は続く。



ポリシスのエンジニア4人。「同じテーマで開発をしても、4人それぞれの結果がでる」ことが面白いという
 ポリシスの挑戦は今、新たな分野へも及んでいる。衝撃吸収、防振に続き、昨年には「防音」を実現した吸音材を発表したのだ。

 これまでもスポンジ状の吸音材はあったが、性能が低く、容積もかさばるなどの問題があった。高速道路などの防音壁は、コンクリートで音を遮断し、外に漏れないようにしているが、重量の問題だけでなく、音が反射して上へ抜けてしまうという欠点も指摘されていた。

 ポリシスが開発したウレタン樹脂の防音材は、水の1/10の重さと軽量化を実現。ウレタン樹脂に細かい石粉を混ぜ、ウレタンと石の粒が摩擦することで、音の振動を熱に変化させて吸音性能を高める構造品も開発を進めている。

 既存のスポンジ防音材の防音率が1000Hz以下では約20%以下に対して、ウレタン樹脂の吸音材は40〜50%の吸音率を達成。住宅・道路用での実用化を目指し、商品化への取り組みが急ピッチで進んでいる。

 「ウレタン樹脂の新しい可能性をどんどん追求していきたい」と語る毛利社長。今日も開発室では、失敗と成功が繰り返されている。ポリシスが生むウレタン樹脂は、次にどんなものに“化ける"のだろう。

会社概要

株式会社ポリシス
〒434-0035 静岡県浜松市浜北区寺島2374−1
事業内容/ウレタン樹脂の素材開発・研究
従業員数/8名 創業/2004年